頑張りすぎないで 誰かに心境伝えて できるだけ睡眠を1月18日 11時47分

「被災者の方々は我慢して頑張っていますが、『もう、たまらない』とか、愚痴も含めて心境を語ってほしいです」

そう話すのは、東日本大震災で被災者の心のケアにあたってきた災害精神医学の専門家です。

能登半島地震の発生から2週間あまりがすぎ、いま大切なことを聞きました。

(ネットワーク報道部 記者 金澤志江)

「いま、頑張りすぎないで」

話を聞いたのは、福島県立医科大学の前田正治主任教授です。

東日本大震災で被災者の心のケアや、そのための調査などにあたってきました。

まず、2週間がたった今の被災者の精神的な状態について、聞きました。

本当に生きることが精いっぱいな状況で、まだまだ将来のことについても、失ったことについても自分たちで受け止められない時期だと思います。

多くの被災者が必死に頑張っている時期で、心の問題は表に出づらい傾向があると指摘しています。そのうえで。

すでにかなり疲れが出てるとは思うんですけれども、心の問題ということで言えば、これからだんだんと喪失感を実感していき、怒りや絶望といった感情が出てきて、よりつらい時期に入ってくる方が多いと思います。

だからこそあえて、「いま、頑張らないで」と前田さんは呼びかけます。

今ひたすら頑張れば何とか解決できる、と思って頑張ってらっしゃる方も多いと思いますが、長い避難生活は始まったばかりなので、ここで無理をしても続きません。なのでいま頑張りすぎないということですね。長期戦だということです。

これを言うとがくっとされる被災者も多いのですが、心構えがないとやがて『まだ帰れないのか』となってしまうので、やはり長期戦になるということはお伝えしなければいけないと思います。

「愚痴を言うこと、眠ること」

そんな中で、精神状態を健康に保つためにできることを尋ねると、大きく2つあるということでした。

1.心境を誰かに話すこと
2.睡眠をできるだけ取ること

まず、1の「話すこと」については、次のように説明しています。

前田主任教授
一番言いたいのは、自分で抱え込みすぎないことです。みなさん我慢しているんですよね。我慢して我慢して、乗り切っていこうとしています。でも、自分が苦しいと話すことは、決してその人が弱いということを意味するわけじゃないです。「もう、ちょっとたまらない」といった愚痴も含めて、専門家でなくても家族や一緒に避難してきた人、誰でもいいので今の心境を語ってほしいです。

2の「睡眠」についても、極めて大切だと言います。

不眠はもちろん体に悪いんですけど、心の問題で言うと、客観的に冷静に考えることが難しくなっていってしまったり、ささいなことでも怒りやすくなったりと非常に不安定になっていきます。

何日も何日も続くようになると、重大な心の危機的状態がきてしまいますので、睡眠だけはとってほしい。心の問題だけではなく、例えば血圧がどんどん上がっていきますし、糖尿病の人は悪化したりと万病のもとにもなります。

しかし、避難生活の中では十分に眠れない環境も少なくありません。

そうした中で考えることとして、前田主任教授はこう話しています。

暖かくするということと、血栓症の予防も含めてベッドの方がいいですし、プライバシーの面でも遮蔽していく。そうした寝る環境が整うことが先決です。

それでも、いろいろ考えて心配で気持ちが高ぶり眠れないとか、そもそも環境を整えるのが難しいということであれば医師に言ってお薬に頼ってもらいたい。

あるいは「1.5次避難」先や、「2次避難」先のホテルや旅館であれば睡眠をとりやすくなります。できるだけそこに行って睡眠だけは取ってもらうという必要もあるかもしれません。

大切な人を亡くした遺族へ 周囲の声かけで気付きを

家族や親しい人を亡くした被災者の心の状態については、次のように話しています。

まだ実感がわいていない時期で、例えば「亡くなった」と知っていても「また戻ってくるのではないか」といった思いを持っている方もいらっしゃいます。ある程度、生活がもとの状態に戻ったあとにかえってこないということを実感していきます。

一方で「なぜ、自分だけ生き残ってしまったのか」「あの時こうしてあげたら助かったんじゃないか」という後悔は、今でも感情として出てきているのではないかと指摘します。

生き残ってしまったという後悔。本当は「生きていてよかった」ですよね。それがご遺族はそう思えない場合があります。「なぜ自分は生き残って、この人は亡くなってしまったんだろう」と。その思いは強烈なんですよね。

そういった思いがあると、自分の体をケアしたり大事にしようとしなくなります。なので周囲の人が、「ごはんを食べていますか?」とか「眠れていますか?」と声をかけて、それに気付かせる役割を担う必要があります。

実感がわいたあとも、その事実を受け止め、回復していくには時間が必要だといいます。

今はまだ周囲が共感してくれる時期だと思いますが、さらに時間が経過すると『まだそんな悩みを抱えているのか』といった声を周囲から投げかけられることもあります。この問題はそもそもが時間がかかるので、例えば月命日には誰か必ずそばにいるとか、そういった支えを長い目でみてやっていくことが重要です。

避難生活の長期化で高まるリスク 災害関連死も

地震や津波などから逃れて助かったものの、その後の避難生活による体調悪化などが原因で亡くなる「災害関連死」も、相次いでいます。

2011年の東日本大震災では去年3月の時点で3794人にのぼっていて、発災から11年を超えてもなお、災害関連死する人が出ています。

前田主任教授は、生活環境の変化によって長い期間にわたって影響が懸念されるといいます。

災害関連死は短期間の問題ではなく、長い復興期間を通して起こる問題です。衣食住が足りてきたとか、世間からの注目を浴びなくなったあとも続きます。例えば福島でよく見られたのは、震災前は田んぼや畑で農作業をしていたのが、一切できなくなってしまって、体を動かすことがめっきり減ってしまったと。それで元気がなくなって、何かをしたいという気持ちが起こらなくなってしまった。

うつ病だけではなく、運動習慣や食事習慣が壊れてしまったことによる生活環境の変化が生活習慣病を悪化させたり、もともと持っている病気のリスクを高めてしまったりします。

さらに復興の程度が、人によって差が開いていくことも心理的なストレスになっていくといいます。

今はみんな一緒に被災者どうしということで動いていますが、さらに時間が経過すると地震の前の生活に戻っていく人と、なかなか抜け出せない人に分かれていくんですね。避難生活や回復の具合に格差が出てくる時期が、メンタルヘルスの問題が大きくなりやすいです。

専門機関で長期的な支援を

だからこそ、被災者を継続的にケアする専門機関の体制整備が急務だと前田さんは指摘します。

一刻も早く、応急措置ではない形でのケアのシステムを作らなければいけません。例えば東日本大震災では発災からおおむね1年後に公的機関が設置され、熊本地震では半年ほどで立ち上がりました。

各地に分散して避難した被災者も含めて全体をケアするシステムを作らないといけないです。支援する側も「困ったら来てくださいね」ではなく、こちらから訪問していくということが最も重要で、支援者が心がけないといけないことです。

支援側も「頑張りすぎないで」

一方で、自治体職員など支援する側の人たちへのケアも急務だといいます。

過去の大きな災害では、自治体職員が精神的な負担感の大きさや長時間労働で精神疾患や心疾患などを発症したケースが公務災害として認定されていて、中には死亡したケースや自殺したケースもあります。

また、自身も被災しながらも職務にあたっている人もいます。

自治体職員は「住民が苦しんでいるのに」と愚痴がこぼせなくなってしまいます。非常に長く復興に向けて住民と歩まなければならない支援者の方も、自分自身の健康に気を配ってほしい。支援側も長期戦だと思ってあまり頑張りすぎないことです。

1月1日の発災の日から働きづめだと思うので、ローテーションを組むなどして休みを取ることも必要です。

ボランティアなどの支援のポイント

最後に、今後ボランティアなどで支援に入る機会がある人に知っておいてほしい、支援のポイントも聞きました。

▽「傾聴」の姿勢でそばにいるだけでもいい

▽「何もしてあげられなかった」とひどく落ち込んでしまったり、焦りすぎてしまうこともあるので気負わず接することが大事

▽話を聞く中で治療が必要と感じた場合には専門家につなぐ役割も

▽外から入った支援者は、被災しながら現地で支援側にいる人をサポートする意識も大事

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