「もちろんやりたい」


北京オリンピック、8日に行われたフィギュアスケート男子シングル前半のショートプログラムで8位となった羽生結弦選手は、演技後のインタビューで注目される4回転半ジャンプへの挑戦についてこう答えました。


ショートプログラムを終えトップのアメリカ、ネイサン・チェン選手とは18.82差。3大会連続の金メダルを目指へ、10日に行われる後半のフリーで逆転のカギとなるのは「4回転半ジャンプの成功」です。

“前とは違った強さでオリンピックへ”

4回転半ジャンプは世界で誰も成功していない大技。


羽生選手は、北京大会の代表に決まった際、ソチ大会とピョンチャン大会で金メダルをとることがこれまでオリンピックの大きな目標だったことを踏まえたうえで、独特の表現で今大会への思いを話していました。



「3連覇という権利を有しているのは僕しかいない。もちろん、夢に描いていたものではなかったかもしれないが、この夢の続きをしっかり描いてあの頃とはまた違った、前回やその前とは違った強さでオリンピックに臨みたい」

今月6日に北京に入ったあと、7日の公式練習では、氷の感触を確かめながら、複数の4回転ジャンプやトリプルアクセルの感覚をチェックしました。



練習のあとのインタビュー。



「やるべき練習もしっかりしてこられたと思っているし、いい感覚で入れている」



その表情はややこわばっていたようにも見えましたが、調整が順調に進んでいることをアピールしました。



「ショートに向けてまず集中したい。とにかくショートもフリーも自分の中では一幕というような感覚でいるが、まずはショートで集中しなきゃいけないと思っているので、ショートに対してできることを積み重ねていきたい」

全力を注ぐことを強調した羽生選手。


しかし、ショートプログラムは冒頭の4回転サルコーでミスが出て大きく減点されました。


すぐに立て直してプログラムを演じ切ったものの、得点は100点に満たず、上位の選手とは差をつけられた形になりました。

“王様のジャンプ” への歩み

逆転を目指して戦うフリー。羽生選手はプログラムの冒頭に4回転半ジャンプを組み込む予定です。


羽生選手は、ピョンチャンオリンピックで2連覇を達成したあと、本格的に4回転半ジャンプに取り組むことを明言していました。

「アクセルは王様のジャンプで、4回転アクセルを目指したい。モチベーションは4回転アクセルだけ」



ピョンチャンオリンピック直後のインタビューで羽生選手はこう話し、4回転半ジャンプへの挑戦を明らかにしました。



しかし2018年のシーズンは、グランプリシリーズの初戦、フィンランド大会で優勝したあと「今は練習していない。前の試合でジャンプで失敗が出てこんなにも技術が足りないということを突きつけられた」と話し、まずは目の前の試合で勝つことに集中する考えを明かしました。

その後は4回転半ジャンプについて進捗(しんちょく)を明らかにしませんでしたが、2019年にイタリアのトリノで行われたグランプリファイナルの公式練習で、この大会の演技構成に入れていなかったにもかかわらず、4回転半ジャンプを練習し、観客や報道陣を驚かせました。



「着氷したかったが、このリンクでトライできたことはとても光栄だった」



トリノオリンピックの舞台だったリンクで挑戦した意味を話しつつ、改めて4回転半ジャンプへ意欲を示しました。



「自分にとって4回転アクセルは、“王様のジャンプ”だと思う。4回転アクセルをやったうえで、ジャンプだけではなく、フィギュアスケーターとして完成させたいという気持ちは強い」

しかし、このあと羽生選手は、新型コロナウイルスの影響で練習の拠点をカナダの


トロントから故郷の仙台市に移し、1人で練習を重ねていくことになります。


感覚を研ぎ澄ますために1回転のアクセルジャンプから体の動きを見直し、1000回を超えたという4回転半ジャンプの練習では幾度となく転んで、体を氷の上に打ちつけました。


たった1人、自分と向き合い練習を続けていくなかで、羽生選手は暗闇の中にぽつんと1人でいるような感覚に陥り、挑戦することを諦めようとしたこともあると言います。それでも立ち上がれたのは、夢を抱いていた幼いころの自分の思いに応えるためでした。



「4回転半とか5回転とかを跳びたいですと言っている小さい頃の自分がいたり、またそれをずっと繰り返している今の心の中にいる自分がいたり、そういったものにずっと突き動かされていて、自分の体の限界とかフィギュアスケートとしての限界とか、そういうものを感じるたびに限界と勝手に決めつけてしまってる自分を超えたいという気持ちが出てきてる」



4回転半ジャンプを成功させるための課題としてあげたのは大きく3点です。



▽どれだけ回転を早く作り始められるか


▽どれだけギリギリまで回転を続けられるか


▽右足の軸をどれだけ強く保てるか



体への負担の大きいジャンプを繰り返しながら、どうすれば成功するか試行錯誤がつづけました。思うような形にたどり着けない4回転半ジャンプについてこう表現したことがあります。

「早く会いたい存在という感じだ。常に後ろ姿が見えていて、霧がかかったところにいるような存在だが、早く会いたいなと思っていて。戦うべき相手とかではなくて、4Aを跳べた自分に早く出会って、その時の感覚だったり感触だったり、自分の夢がかなった瞬間の達成感だったり。そういったものを早く味わいたい」



去年12月の全日本選手権。


羽生選手は、後半のフリーの演技の冒頭に初めて4回転半ジャンプを組み込みました。公式練習から繰り返し確かめていたそのジャンプは回転不足や両足での着氷とはなっていたものの、2019年のグランプリファイナルで見せたジャンプとは大きく成長していることは誰の目に見ても明らかでした。



迎えた本番。思い切りよく踏み切ると、勢いよく回転をつけて着氷。しかし、回転が足りないと判定されて成功とはなりませんでしたが、試合で初めてチャレンジした4回転半ジャンプでした。

「まあ、頑張ったなという感じだ。正直まだいっぱいいっぱい、あそこまででも。悔しいですけど自分のなかでこの練習とこの練習をして、こういうふうに組み上げていくんだという気持ちは明確にあります」



そして、北京オリンピックを見据えて決意を新たにしました。



「4回転半ジャンプが自分の手元にいま駒としてちょっとでも使えるようになってきた中で、その子さえちゃんと仲間に引き入れてあげれれば、勝てる。その子さえきちんと一緒に天と地とに組み込めて今の構成が保てるのであれば、絶対に勝てると思える。やっぱり4回転半は自分の武器にしなくてはいけないですし、勝つならやらないといけない」

逆転を目指して戦う10日フリーで演じるの「天と地と」。


3連覇に向けてミスは許されない状況で、演技冒頭に組み込む予定の4回転半ジャンプを史上初めて成功させたうえで、代名詞である完璧な演技をすることができるのかが偉業達成のカギとなります。