ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻から24日で1か月がたちました。首都キエフでは、ロシア軍がミサイルなどで攻撃を続けている一方、ウクライナ側も激しく抵抗しています。
こうした中、キエフには今も多くの市民が残っています。

現地は今、どんな状況なのか。
市民の安全はどうなっているのか。

専門家と、市内にとどまり続けている男性に話を聞ききました。

専門家分析

現在の戦況をどう見るのか。

安全保障に詳しい防衛省防衛研究所の高橋杉雄室長に聞きました。

●戦況:こう着状態も一部戦線ではややウクライナに傾きか

「基本的にはこう着状態。こう着状態といっても決して単ににらみ合っているだけではなくて、前線では常に交戦をしているので、そのバランスが今、やや一部の戦線でウクライナに傾いたということではないか」

「特にウクライナの場合は、大きく後退したあとで、ジャベリンとかスティンガーを使って少人数で、例えば3人とか5人ぐらいのグループで、かなりの破壊力を持つ攻撃ができたというのは大きかったんじゃないか。ただ、占領した国境から、かなりの面積を占領したロシア軍を押し戻すほどの力をウクライナ側が持つかどうかについては、まだ判断できない」

●軍事作戦:ロシア キエフの攻略挫折で別の作戦に

「ロシア軍自体は、そもそも2つの作戦を行っていた。1つがキエフの攻略を目指す侵攻、もう1つがドンバス(東部の一部地域)からクリミアにかけての侵攻。キエフの攻略が挫折した。少なくとも第1作戦は挫折した。そうなった時にロシア側としては選択が2つあって、北部の方の戦力を増強して、もう一度、キエフ包囲を試みる。あるいは、東南部ドンバス(東部の一部地域)、クリミア方面に戦力を増強して守りを固めていく、あるいは、少しずつ占領地域を増やしていく。2つの選択肢があったんですけれども、その後者を選んだというようなことだと思う」

●今後の見通し:ロシア キエフ周辺に軍維持 東南部支配へ

「キエフ周辺にロシア軍を維持して、ウクライナ軍を引きつけさせつつ、東南部の支配を確立していると、そういう形になるのではないか。だからといって、防戦一辺倒になるわけではおそらくなくて、都市攻撃というのは継続的に行われるんだと思う」

キエフに残る市民はいま

オンラインでの取材に応じてくれたのは、キエフ中心部で語学学校を経営するゲラ・トゥラベリーゼさん(50)です。

ゲラさんは、妻、次女、長男の4人で暮らしていましたが、ウクライナ各地で戦闘が激しくなった2月28日に、家族を隣国ポーランドに避難させました。

また、近くに住む長女の家族も、ウクライナの西側に避難したといいます。

ゲラさん自身は、男性の出国が制限されていることから、今も自宅に残り、キエフの状況をSNSで発信し続けています。

キエフ市内の戦闘状況は?

「今のところ中心部では、大きな被害は確認されていませんが、キエフ近郊で行われているロシア軍の攻撃が、少しずつ近づいているように感じています。

23日には、自宅から2キロほど離れた住宅街が、ロシア軍による砲撃を受けました。

幸運にも犠牲者は出ていないようですが、ガスパイプが破壊され、多くの人が住む場所を失いました」

ロシア軍の攻撃に変化は?

「これまでは、私が住むところの近くで住宅街が無差別に攻撃されるようなことはありませんでした。

連日、爆発音や砲撃の音が聞こえ、キエフ周辺への攻撃は確実に強まっているように感じます。

キエフは安全だと思っていましたが、今はその確信が持てなくなってきています」

市内はどういった様子か?

「キエフ郊外と中心部で違いはあると思いますが、私が住む中心部では、一部のスーパーや薬局は営業していて、水や食料などは確保できています。

ただ、スーパーの棚は品薄になってきていますし、ガソリンも手に入りにくくなっています。

今は、備蓄された食料や燃料で生活できている状況ですが、ロシア軍による包囲が続くと、いつまで持ちこたえられるかわかりません。

今後、市民の生活は悪化していくと思います」

市民の暮らしは?

「大勢の女性や子どもが避難しましたが、今も多くの市民が残っています。

砲撃の被害を最小限にとどめようと、土のうを積んだり、道路に障害物を設置したりするなど、ロシア軍の攻撃に備える市民の姿が見られます。

一方で、こうした状況が長く続いていることで、市民の“疲れ”も感じています。

侵攻当初は、空襲警報が鳴ると、ほとんどの人が地下シェルターに避難していましたが、最近はあまりにも頻繁に警報が鳴るため、多くの人が避難しなくなっています。

また、空き地でサッカーをする人も出てくるなど、少しでも日常生活を取り戻そうと努めているようにも感じます」

今の状況は改善するか?

「ウクライナとロシアの間で停戦合意が結ばれるまで、今の状況が改善するとは思いません。

ただ、ロシア側はウクライナが到底受け入れられない要求をしているので、停戦合意は難しいように感じています。

私には、ロシア人の友人もいて『ウクライナを応援する』と言ってくれていますが、一方で『強権的な政権を前に、できることが少ない』とも嘆いていました。

ロシアでは、国営通信などを通じて、偽情報が流されているといいますが、ロシア人たちが、本当は何が起きているのかに気付き、立ち上がってくれることを期待しています」

今後もキエフにとどまり続けるか?

「今のところ、キエフを離れることは考えていません。

ウクライナは私の祖国で、キエフがロシア軍に占拠されたら、2度と取り戻すことができないことをわかっているからです」

「侵攻前は、子どもをダンス教室に連れて行ったり、一緒にスポーツをしたりしていました。

長女は毎週末、孫を見せに来てくれました。

そんな幸せな生活はすべて壊されました。

これからどうなるのか、先が見えない状況ですが、家族と再び一緒に暮らしたい。

それが私の一番の願いです」