ことし3月9日に韓国大統領選挙が行われます。
今回の大統領選挙で論戦になる韓国国内の主な課題をまとめました。
不動産政策 価格の上昇を食い止められず
ムン・ジェイン(文在寅)政権の政策で最も批判を受けているのが、不動産政策です。ソウルのマンションの平均価格はムン政権の間に2倍近く上昇しました。
その要因の1つが、首都圏への人口の集中です。首都ソウル、国際空港のあるインチョン(仁川)、それにソウルを囲むように位置するキョンギ(京畿)道をあわせた首都圏の人口は、全人口の半数を超えています。大企業や有名大学も集中していることから、若い世代の流入はとどまるところを知りません。
これに対してムン政権は、不動産業者などの投機によって価格の急騰が起きたとして、融資の規制や増税などを行ってきました。これまで20回以上にわたって不動産対策が発表されてきましたが、価格の上昇を食い止めることはできていません。
また、対策のアピールが裏目に出たこともありました。
大統領府の幹部は2019年12月、「複数の住宅を保有する公職者はできるだけ早い時期に1軒だけの保有とすべきだ」と発言しました。ところがその半年後、一部の閣僚や政府高官が首都圏にマンションなどの不動産を複数保有し続けていたことが明らかになりました。
発言をした幹部自身も複数の住宅を保有していました。首都圏でのマンション購入は夢のまた夢という庶民からは、厳しい批判の声が上がりました。
所得格差の拡大への対処 都市と地方の格差も
所得格差の拡大も顕著になっています。
韓国の統計庁によりますと、去年8月現在で正社員と非正規労働者の賃金の格差は156万7000ウォン、日本円でおよそ15万円と、ムン政権が発足した2017年に比べて20%増え、最大となりました。
ムン大統領は、就任時の国民向けメッセージで、公正な社会や経済を目指すと宣言しましたが、格差はむしろ広がっているのです。
それは都市と地方の間でも深刻です。韓国のある新聞は、首都圏と地方の格差を、韓国と北朝鮮の分断に次ぐ「第2の分断」と表現しました。韓国国土研究院の調査によりますと、首都圏の総所得は地方の1.3倍となっていて、この20年間、ほとんど変化がないということです。
首都圏への人口流出によって山間部などは人口減少や少子高齢化が進んでいます。行政安全省は去年10月、こうした現象が特に深刻な全国の89の市や郡などを対象に財政支援を強化すると発表しました。
この中には、2018年に冬のオリンピックが開催されたピョンチャン(平昌)も含まれています。
若者の失業率
ムン大統領の誕生の要因に若者たちからの厚い支持があったと言われています。ところが各種世論調査を見ると、その若者たちの「ムン政権離れ」が進んでいます。
背景にあるのは、深刻な若者の失業率です。ムン政権発足以降10%近い状態が続いていました。去年は7.8%にまで改善しましたが、研究機関の韓国経済研究院は、若者たちが実感する失業率として算出される「体感失業率」は25%で、4人に1人は仕事がほとんどない状態ではないかとみています。
失業率の増加の要因の1つに、急激な最低賃金の引き上げがあります。ムン政権は、所得の増加による経済成長を目標に掲げてきました。最低賃金は、2017年以降、およそ42%と大幅に引き上げられました。しかし、中小企業では人件費の増加に対応できず雇用を維持するのが困難となり、その結果、失業率の増加につながったと言われています。
就職難に直面する若者たちの間では、安定した職業を望む傾向が強まっています。
特に公務員の人気が高く、韓国統計庁によりますと、去年5月の時点で、就職を準備している若者およそ86万人のうち、公務員を目指している人は32.4%に上りました。
初任給が166万ウォン、日本円でおよそ16万円の、最も等級が低い公務員の場合でも、去年の試験の倍率は27倍余りに達しました。
新型コロナ対応 経済活動との両立が大きな課題に
新型コロナウイルスの感染拡大に対し、韓国政府はPCR検査などを徹底することで封じ込めを図り、一定の効果があったとして内外で評価されました。
ワクチンについては、当初、欧米に比べて確保が遅れていると批判されましたが、接種は順調に進み、去年10月、接種率が70%を超えました。
これを受けて韓国政府は、日常生活の回復を目指すとして、去年11月から感染防止のための規制の段階的な緩和に乗り出しました。
飲食店の営業時間の制限がなくなったほか、カラオケ店や入浴施設などはいわゆる「ワクチンパスポート」で接種の完了を証明できる人などを対象に営業時間の制限が解除されました。
ところがその後、感染が拡大し、1日の感染者が一時7000人を超えたことから去年12月再び営業時間の制限をかけていて、感染を抑えることと経済活動の両立が大きな課題となっています。