金融市場の動きを読み解く「マーケット興味津々」のコーナー。24日の週、最大の注目イベントはなんといってもFRBのFOMC=連邦公開市場委員会とパウエル議長の記者会見の内容でした。会見を聞いた市場関係者は「議長が本気のタカになった」と口をそろえます。パウエル議長は何をタカの鋭い目でとらえているのでしょうか。(経済部記者 白石明大)

「タカ」や「ハト」といった動物でその人物の姿勢を表す表現は、もともとは政治の世界で使われてきたことばでした。



強硬な態度、武力行使などをためらわない強い姿勢は「タカ派」と呼ばれる一方、平和の象徴でもある「ハト」は平和主義や穏やかな態度を表すときに使われています。



金融の世界での「タカ派」は物価の安定を重視し、金融引き締め的な政策を支持するスタンスのことを、「ハト派」は景気を下支えするため、金融緩和的な政策を支持するスタンスを意味します。



市場との対話を重視することで知られるFRBのパウエル議長は、インフレ懸念はありつつも急激な利上げには慎重な、いわゆる「ハト派」に近い人物とみられていました。

FOMCの終了後、日本時間の27日早朝に始まったFRB・パウエル議長の記者会見。



この中でパウエル議長は「今の経済にはもはや金融政策の力強い支援は必要ない」「政策金利をまもなく引き上げることが適切だ」と述べ、次回・3月の会合で利上げを決定する見通しを明らかにしました。



また、パウエル議長は毎回の会合での利上げの可能性を否定しなかったことから、インフレ抑制に向けて市場の想定よりも早いペースで金融引き締めが行われるとの受け止めが広がりました。



穏やかな「ハト」とみられていたパウエル議長がついに鋭いタカに変身した瞬間でした。

市場関係者が議長の発言で注目したのは「賃金の上昇」でした。



これまでFRBはインフレの要因はコロナ禍の企業の生産体制の混乱や原油価格などのエネルギー価格の高騰が主な要因だと説明してきており、これらが解消されれば、物価上昇率は低下するとの認識でした。



しかし、価格上昇がより幅広い商品やサービスに拡大する中で労働者の賃金も上昇。求人数も過去最高水準で賃金も早いペースで上昇していることを踏まえれば、大胆に動かざるを得ないと、市場関係者は強いメッセージを読み取ったのです。



賃金上昇の背景には新型コロナのオミクロン株の感染拡大があります。



アメリカでは経済を正常化させようと企業活動は活発になりつつありますが、一方で感染リスクを警戒していったん職場を離れた人たちが仕事に戻るのを控える事態が起きていて人手不足は容易に解消しないとの見方もあります。



感染拡大が続けば人手不足が続き、事業を続けたい企業は賃金を引き上げる。この流れが高いインフレを定着させてしまうのではないか。パウエル議長の鋭いタカの視線はここに向けられていたようです。



ある市場関係者は「アメリカのインフレはより複雑で長期のものになる可能性があると受け止めた」と話していました。

アメリカが利上げを急ぐことによる経済減速の懸念から27日の東京株式市場は、ほぼ全面安の展開となり、前日より800円以上の下落し、1年2か月ぶりの水準まで値下がりしました。



28日は一転して日経平均株価は大幅上昇に転じましたが、市場の不安定さは払拭(ふっしょく)されていないように感じます。



パウエル議長が本気のタカに変わったショックがどこまで金融市場で尾を引くか、そして何よりFRBが過熱が指摘されるアメリカ経済をいかに軟着陸させられるか、私もタカのように鋭い視線で見ていきたいと思います。

31日の週は、去年4月から12月までの日本企業の決算発表が本格化します。



足元の業績はもちろん、オミクロン株がことし3月期の決算に与える影響や、断続的に続いている半導体・部品供給不足の解消の見通しなど各企業の発言に注目が集まりそうです。